『intermedio:Stage:3-2 海辺にて。以下略』
※長らくお待たせしました。ゼクシオン&ソフィア小話海辺編、後半戦
ラーラーラ。ララーラ。言葉に出来ない。物悲しいフレーズが脳裏に木霊し去っていく。
カキ氷宇治金時。マンゴープリン。マンゴージュース。アイスクリーム。
まァ此処までならちょっと食べすぎかなとは思いつつ、甘いものが好きな女の子なら普通なんだろうなと、うん、ごめんなさいオレが甘かった。認識が足りていなかったのだと、自分の甘さを呪いかねない光景が其処にはあった……。……そう、既に制覇二桁を越した屋台の傍で、今度はカステラを買っているソフィアを見て、気を失いたくなった! またオレの分まで買ってやがる!? つーかなんで海でカステラ!?
その、何とも言えないオレの顔をどう受け取ったのだろうか?
屋台の主人は屋台踏破劇を見ていたらしく、笑顔で料金をオマケしてくれていた。
憎い。
色んな意味で憎い。
途中で買った常に冷えているという謎の保冷効果を持っているラクナス製ビール(ラクナスなので気にしない)をまた一口啜りながら、口惜しいぐらい巧い液体を喉に流し込んでは後から来る絶妙な苦味に心を浸しているこの時だけでも目の前の光景を忘れたいのに、オレの分までカステラ買って来たソフィア嬢が笑顔で渡してくる。受け取るオレ。情けない。
「……? ろうか、ごくん。失礼しました。どうかなさったんですか?」
「ン。あァ、いや。いやね。小走りで駆け寄ってくるものだからさぁ。
小さくて可愛らしいおへそとかお腹とかが、ちらちらとね。それ見て悦に浸ってたんだ」
思えば普段から間食を抜かした光景に見覚えが無い。
三食はモチロン食べるし、10時と3時にはお茶の時間だし、たまに夜食も食べていたような?
気にしていなかったオレもオレだが、まさか此処まで入るとは思わなかった。
そういえば此処最近の話だが、アマジークが
『この世にはな、胃袋なんていう概念が通用しねぇ輩が居るんだよ……』
とか電話口で嘆いてたが、もしかしてこの娘もそういう類なの?
(その例の輩がどうにも聞き覚えのある特長をしていたような)
あァ。今のはオフレコだ良い子の皆様。賞金稼ぎが賞金首と仲良いなんて、知れたら困る。
そんなことをまるきり感じさせないプロポーションを褒めたつもりだったのに、真っ赤になって砂を投げてくるソフィアの攻撃を避けながら、脳裏に1フレーズが終わった途端に飛来する危機感は考えないようにする。まさかこの屋台全て制覇するつもりじゃ、なかろうな。
正直な話このカステラだってそろそろヤバイ。ビールに合わないよカステラは。
ひとしきり投げ終わったのか疲れたのか、恨めしそうな顔で睨んでくるソフィアに降参って諸手を挙げつつ、
「でもまァ何だ。オレが勝手に買って勝手に押し付けたクセに言うのも何だけど、似合ってるよ」
ご機嫌取りも兼ねて、余計な手間(ナンパ師撃退)が入ったせいで褒め損ねていた水着の具合を改めて褒める。
個人的には大きく肌を見せてくれるのは大歓迎だったのだけれども、
それだと着るどころか日の目さえ見せてらえないであろうと考慮して選んだ水着。
タンキニ。布地が多い割には背中やら胸元やらが程好く開いていて通気性も良く、
健康的な色気も伺えると評判の人気デザイン、らしい。店員の受け売り。
だって女性物の水着なんてよく知らない。男が熟知してても困るだろ?
……選んだ自分で言うのもなんだが、白磁というには少々物足りないが病弱という程でもなく、強いて言うなら雪の白がよく似合う肌には白と紺のエスニック柄というのがナイスヒットだと思うのだが如何だろうか画面前の諸君。少々残念なのは割といい脚、機能美もそこそこにという意味だが、その脚が目立つような短パンをパレオで隠してしまっている事だろうか。
パッと見飾り気らしい飾り物と言えば、
控えめとは言い難いが出っ張りがあるとも言い難い胸部(怖いのでとても口に出して言えません)できらりと輝く銀細工の十字架に加えて、日差しを避けるような唾広の帽子と組み合わさって出来る全体図は、驚くぐらい地味に仕上がってしまった。個人的にはベストチョイスだと言えるのだが(寧ろこういうの大好きだ)、どう見たって色気のあるような姿には見えないのに、それをさくっと見抜いたあのナンパ男の眼力は流石と言わざるを得まい。
海のナンパ師は侮れない。
さておき。
軽いセクハラでも顔を真っ赤にする彼女は、褒められたら更に真っ赤になってしまった。
俯いてからぼそぼそと何か聞こえるが、謙遜だろうか? 残念ながら海の喧騒のせいで聞こえないしどの道聞くつもりもないのだが、全くすぐこうやって遠慮するのだから。と、そう思っていると、
「そ、その。えっと。えっとですねゼクシオンさん!」
「はい!?」
ビックリした。大声出されたものだから思わずハイとか言っちまった。
なにやら意を決した様子だったソフィアに、気にしないでと手振りなジェスチャー。軍事経験者に不意打ちでおおきく声を掛けてみたら殆どのヤツはきっとこうなるから、良い子の皆は真似しないでね。その驚かされた彼女に首を傾げて見せた。
その様子に出端を挫かれたようだったソフィアはしかし、暫くは、
『えぇっと』『そのですね』『うー☆』
とか言っている。最後は嘘だ。
言葉に詰まって当て所無い視線をさまよわせた挙句、気を紛らわせようと小さくカステラをぱくっとかやってるところは文句無しで可愛いのでソレを眺めつつ待つオレ。あァそろそろビール切れてきた。
そうやって結局ビールを飲み干しきってゴミ箱へ投げ捨てた時に、漸く言葉が零された。
「うー。えっと、その。あ、ありがとうございます。こういうの着た事無くて、そ、それにその、代金のほうまで……」
「ン? あァ。気にしなくていいって。これでもおじさんはお金持ちだから。
何よりオレが誘った寄り道だしな(うーってホントに言ったよ。ナイスうー)」
ぶっちゃけた話シーヴァーとの約束も含めれば、国ぐらい建てれるのではというレベルで金持ちだ。長者番付堂々の13位だよオレは。因みにシーヴァーは堂々の一位だ。あのジジィいつか締めてやる。締めないとあと軽く100年は現役で居そうだから。
そんな自慢と、脳裏を過ぎる憎しみに捉えられていた顔をどう取ったのか、不思議そうに首を傾げるソフィア嬢。
何でもないです。とある賢者の爺を死なせようと思っただけです。
「そう、ですよね。言われてみればゼクシオンさんが金銭面で苦労しているところ、見た事ありません」
「だろ」
「でも、それならどうして賞金稼ぎなどやっているのですか?」
Oh、変な所に話題が行ってしまった。そういえば聞かれた事は無かったかな。
少々返事に詰まるオレと、そのつまり具合に何か勘違いして慌てだしているソフィア嬢。
あーいやいや別になにか深い事情は無いですよ無いですってば。戦友と生き別れだとか死に別れだとか絶縁とか敵対とか素敵なエピソードは色々あったりなかったりするんだけども、そんなものは何処の賞金稼ぎも同じだって。たぶん。そういう意味をこめて軽く笑い飛ばして、杞憂に慌てる彼女を制止しておく。
「つまらない理由だよ。まァこんなとこで呑気に語る理由でもないしさ。
ほら。それより遊ばないか? そこの超絶う☆ぉーたーすらいだーとか興味あるけど」
オレの軽い調子に乗せられてか気を遣ってか、
そうですねーなんて少し不服顔なのは気のせいなソフィアに人口海辺を指差した。
相変わらずカップルは多くナンパ師は徘徊し、
それとは関係無しに家族共々休暇を満喫してる姿やらと賑やかな浜辺。
オレ等もカップルに見えるかな。え? 援助交際に見えないだけ感謝しろって?
何かこのままじゃ自身のネガティブに押し潰されてしまいそうなので、妹を遊びに来させたお兄ちゃんとして全力で遊ぶとする。実際こうやってアミューズメント施設に遊びに来るというのも初体験なので、さり気なくも、浮かれているのは見逃して貰おう。
「それにソフィアちゃんも燃焼させたほうがいいよ。し・ぼ――うへぇっ!?」
鳩尾にブローが入りましたー喜んでー!? お、横隔膜がァァァ……
ちょっと話題転換するには強引過ぎましたかそうですか。一気に酸素欠乏症へ陥った我が身体がよろついているのを尻目に、ふんっ、と随分鼻息荒くしてさっさと一人で砂浜を行進していくソフィアちゃん。ちょっと待って。あの。幾ら筋肉があるったって此処は拙い。急所ぞ!?
とりあえず人間の急所を全て教えてきたりもしたが、最近遠慮が無い。嬉しいやら悲しいやら。
酸素欠乏症に入る前になんとか気を取り直したオレ。
危なかった。もう少しで顔が紫色になるところだった。
――……ってあれ、居ない? 何処行った?
幾ら怒っているとは言え、何も言わずに姿を消すことはないだろうに。それも一瞬で。見回しても近場に目新しいデザート系屋台は存在しないので、それに引かれて鉄砲玉のように弾き飛んでいったわけでもなさそうだけれど。はて(因みに弾き飛んでいくのは良く有る。勘弁して欲しい。マジで)
ただ見回した際に、若干回りを取り囲む騒がしさの質が変わっていることには気付く。
海岸沿いに人混みが出来ているのにも気付いた。何かあったのかと思って近づけば、飛び交う言葉の数々。
聞いてみようか。
子供、目を離す、飲み込まれる、助けろ、警備員、早く、女の子が今、etc.
翻訳。
子供が目を話した隙に遠くに行って、
その遠くで偶然排水口が開いて飲み込まれそうになって、
今警備員とかライフセーバーとか管理者とか呼んでるけど、
間に合わないからって女の子が一人飛び込んでいったらしい。
その女の子の持ち物らしき麦わら帽子が人混みの中からちらっと見える。
ついでに、
まるで怪物が大きく口を開いたような、とは幾らなんでも大袈裟だがそれでも見応えのある渦に巻き込まれていく子供と、その子供に向かって泳いでいく見覚えのある体付きをした見覚えのある金髪が見える。見た所他の大人も一応助けようとしたようで、一緒に渦の中心部に飲み込まれている。
………………。
此処は観光地でもある。それも一等的な。
そういったところでは基本争い事が勃発してはいけないってことで、武器の携帯は勿論、魔術も使用禁止にされていることが多い。そして何を隠そうオレは魔術師だ。魔術がないと、流石にあの距離には一気に追い付けない。身体、最近鈍ってきたかな。
ソフィアちゃんの泳ぐ速度がパネェ。泳ぎ上手ェ。
………………。
仕方ない。こういう時は、そうも言ってられないだろう。
そう思って足を踏み出し、人混みを掻き分けて波打ち際へと移動していく。その途中に短縮詠唱を唱えて足場に魔力を集中させる。このまま目標値まで一直線に氷を張り巡らせても良かったが、あの渦の勢いと飲み込まれている人数を鑑みたら宜しくない。一緒に凍らせるわけにもいくまい。
と、その掻き分けていく途中で影が複数立ちはだかる。
「お、お客様。何をなされているんでしょうか、魔術の使用は禁止されておりますがっ」
ライフセーバーだ。場の混雑を納める目的で出てきたらしい。
先程から流れ込んでくる音声には緊急救助部隊の要請もあるにはあるが、間に合わないだろう。
「そんな事言ってる場合か。ほれ見ろ、もうあのガキとか飲まれかけてるが」
「今現在、レスキュー班が向かっております! あと一分少々で到着するので――」
「一分少々で到着して、ホバーであの場所に向かうまでには何人か逝ってる」
「いやしかしですね。規約は規約でありまして……。ッ!?」
まだまだ若いがすっかり給料の査定に毒されているらしい。仕方ないか。
若いライフセーバーの胸元に、手を当てて。そのまま力を入れて押した。
まるでボールのように勢い良く跳ね飛んだ彼の身体は、渦の影響で引きは強く、しかし帰ってこれないワケでもない場所に着水して、ハハハ、必死に手足ばたつかせてる。
人の邪魔をした罰だ。出来ればそのまま溺れているがいい。それでは気を取り直して?
その光景を見ていた他数人がオレを抑えようと飛び掛ってくる前に、走る。砂浜から波打ち際へ、波の引き際から一気に水場へ、人工的に作られた海の上から目標物まで一気に駆けていく。
後ろのほうで人のことを規約違反者だの警備隊も用意しろだの言ってるが無視だ!
投影魔術。魔力の割に合わん即席道具造詣魔術、とでも言おうか。
馬鹿みたいに魔力を使う割にはたいしたことが出来ない代物を掌に集中させると同時に縄を精製して、投げて、未だに流され続けている大人共に絡めて、そのまま、力任せに、浜辺へ投げ飛ばす。
丁寧に助ける暇がないとは言え力一杯投げたせいで、ぼきっとか嫌な音が聞こえるけど気のせい! 大丈夫。骨とか肉が多少裂けても命に別状は無い! 後ろを振り向かなくとも悲鳴を合図代わりに砂浜に吹っ飛んでいく大人共の無事を確認しながら、
「さーてレディは優しく扱わんとね。あァ面倒臭い!」
ぼやきながらも走り続けて近づく背中。
掴むところが水着ぐらいしかないという中々悩ましい状況ではあるがそうも言ってられない、ということで失礼ながら腕を海面に突っ込み、細くも最近筋肉の付きもよくなってきたすべすべお肌の腰周りにに腕を回して一気に担ぎ上げる。
悲鳴やら困惑やらで叫び声を上げているこの光景は全く以って犯罪臭い。
しかしそれに悠長に返事をしている余裕もないので加速。
なんてったってガキは既に渦の中心。マジで余裕無いよ。
加速して渦の速度に足を取られそうになりながらも接近。
かろうじて浮き輪にしがみついて水中に没さない程度の麗しき幼女様もまた片方の手で引っ掴み、肩に担ぎ上げ、今度は自分が渦に飲まれぬように魔力の足場を思い切り蹴り飛ばして、引き込まれそうになる空気の流れと共に中心から脱出。
勢いを付け過ぎたせいかそのまま錐揉みしかける身体の体勢を整えながら、何度か足踏みを加えて加速を緩める。
まるで回転を加えて水面を跳ねる石のように、弾けるような音を連続させながら渦の及ばぬ範囲にまで足を運んで、止まった時には、岸辺は随分小さくなっていた。
両肩に一つずつ、女の子特有の柔らかなお肌と、幼女特有のまだ未発達で擦り切れやすい軟い感触を乗せたまま、其処で漸く、本当に漸く一息付ける。駆け出しから此処まで何の準備も無くノンストップとは中々無茶をさせてくれる。
その原因二人は急激な加速と減退を経験してぐったり気味。一般人の体感からすればざっとジェットコースターの数倍は過激だから無理は無い。無理をさせてくれたとぼやきたいのはオレのほうだ。何から何まで急だったからごっそり魔力がなくなったし。
もう少し丁寧かつ慎重かつノーリスクで救えるのが理想だったが及第点で勘弁してもらおう。
何しろあまりに時間が少なかったのだからと自分に言い訳を加えながら、
小型収納カプセルを懐から取り出し、簡易的なエアーボードを取り出し水面に浮かべて二人を下ろす。
あァ悩ましい。全く以って悩ましい。(幼女は流石に守備範囲外だが)ほぼ素肌に女の子の身体を乗せる状況なんて精神的に悪い。水着特有のすべっとした感覚もまるで無いように感じるのだから最近の水着は恐ろしい。海辺の性犯罪にご注意だぜ父兄諸君。全くもう。
しかし。さて。ここまでも問題だったがここからも問題がある。
つい数秒前までが個人の生命を危ぶむ危機だとして、今から暫くはオレの社会的危機かな?
あー先ずはここの責任者を脅すところから始めるか。
その前に警備隊を説得しなきゃならんが、そこはそれ、今助けたばかりのお二人に援護してもらうとして、
「それじゃお二人さん。今から岸まで引っ張っていくからしっかり捕ま……っ、て……」
小山が見えた。二つほど等間隔に並んだ、小山が見えた。
本来ならば生地があってしかるべきところには何もなく、
その肝心の生地と言えば実は渦に飲み込まれていたとかそういうオチ。
年相応というには少し物足りないかもしれないが美しく曲線を描いたそこは、手入れを欠かしていない肌が地道に続いたお腹と遜色のない滑らかさ。握ったらさぞ柔らかいであろう、というより先程から肩に当たっていたらしいあの柔らかい質感をそのままに、頂には寒さで凍えたせいかツンと尖ったピンクのソレ。
つまり、なんだ。乳房から乳首まで、丸見えですよソフィアちゃん?
いや待て。まだ大丈夫だ、ソフィアちゃんは気付いていない!
急激な加速運動でまだぐったり中、まだ知らぬで通せる!
そう、このまま何事もなかったかのように上着を掛けてしまえば……
「あ、お姉ちゃん。おっぱいまるみえー」
幼女の放った痛恨の一撃。
下を向くソフィアちゃん。
全力で横を向くオレ。
しかし何もかもが、遅かった。
そう、その合間。
時間にしておおよそ92秒。
気付いてしまった彼女が、顔を真赤にしながら不安定な足場においても抜群の右ストレートをオレに撃ち込むまでの、時間だった。
――因みにその後。暫くの間ソフィアちゃんは、まったくオレに話し掛けてくれなかった。そりゃもうまったく。
うん? 警備隊との話はどうしたって?
そんなもん責任者を軽く脅して軽く包んでお終いに決まってるだろ。どんだけオレの名が知れてると思ってんだ。
そんな、恐らくは有名人の一人に右ストレートを叩き込んだ名人の口を開かせるほうが余程苦労したってんだよ。
渦の中から助け上げたにしては、あんまりな報酬だとは、思わないか?
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