不熟な身体と粗末な回路でも、
このラクザ一つを一撃の下に消し飛ばすことなど造作もない者。
完全な身体と万全な回路を持てば、
たとえこの世であろうと五日もあれば生き物を根絶させ得る者。
魔王。
とある書物には創造神なるものが在り、彼か彼女かは七日を以て世界をこしらえたと語られる。なるほど、創るは難し壊すは易しというならば二日ぐらいの短縮は出来るだろう。やられるほうとしてはたまったものではない。まったくもって不条理だ。愚痴になってしまった、筆を戻そう。
アレはあらゆる生物の不幸を願う一塊。〝悲劇〟そのものだと言ってもいいかもしれない。
だからこそ私、バルバロイ・ルン・ラインバルトはこのような結論に達す。
魔王は全力で戦うことが出来無い。
何故か? と、いえば、アレは『そう在り過ぎて』いる故。何かの不幸を見ねば気が済まない、何かの不幸を見ずには居られない、そうなればたった一瞬たった一撃で蒸発させるワケには行かない。魂とやらは肉体が一瞬で消し飛ばされようと暫くその場に残り、怨念を放つだろうが、それも多少。生き物はやはり、生きていなければ不幸を長く保てない。
長く。長く。もがいて苦しんで嘆いてこその〝不幸〟。
だから、負けたのだ。余裕ぶっこいてるせいで負けた。人間に。単純に甘く見ていただけというのもあるだろうが、馬鹿なものだと思う。この世の中、人間以上の脅威など存在しない。あれらは、歴然とした力の差を、超えられるはずのない力の差を、どこかで超えてこれる種族だ。無論、全てが全て、全員に備わっている力ではないというのが、我等異貌の勝機とも言えるわけだが。
また話が横に逸れてしまった、筆を戻そう。いや、もう書くことは無いか。この、タイプライターと呼ばれる機械、ペンで紙に記すより手軽なのは大変宜しい。書いている途中で墨をぶちまけて台無しにすることもないし、滲みもないのだが、打ってしまった文章を消せないのが難点だ。
PR