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此処はこのブログの管理人・黒斗の一室。日々の雑談を記している時もあれば風月投稿所にて行っているPBC『Babel』の話をしている事も在る、そんな一室に御座います。

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    黒斗
    性別:
    男性
    趣味:
    料理全般(専ら食べる方だけどもね)、酒、煙草、コンビニで週刊誌の立ち読みは既に日課、紅茶、等等
    自己紹介:
    この画像みたいな悪党面も悪どい笑いもしていないので注意。髭と顔が濃いのは認めざるを得ない
    最近は特に肩身の狭い喫煙者。
    ついったー
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    『狼が狙う獲物は、雲の上』 下
    ※三つに分けた小話の一番最後となりますので、最後にお読みください※






    二度、三度と乾いた空気と静まり返った空間の中によく響く呼び出し音は四度目で繋がった。
    『あァ、アマジーク? ごめんなさいね、先程は。行き成り凄い音がしたものだから……』
    「転んだのか? いい年してお転婆演出するのもいや分かったゴメン切らないでくれる?」
    数分前まではまだまだ改修すれば使えそうだった建物だったものは今や、リサイクルの為にゴミ回収業者に回収されるのがやっとな有様となった瓦礫の山。残っていた街頭も根元から吹き飛び、罅割れていた街道も緑が侵食も出来ない程に抉れ飛んでいる始末。
    とある民家のダイニングから直線距離にして数十メートルに至るまで、巨大な何かが障害物も意に介さず通り抜けた跡のような惨事を催していた。
    あまりに壊れすぎていて一体何で壊されているのかも傍目からは分からないだろう。その惨状の中を先程途中で切ってしまった電話を掛け直しているアマジークが歩いていた。自分の道を塞ぐドアの残骸を蹴り飛ばしては軽々と空へと舞い上げて、後ろに落ちていくのを背にしながら声は続く。
    『やはりグラッドストーンの坊やだったのかしら?』
    「あァ。噂通りの男だったよ。堅実。頑健。頭は切れるがまだ若いのが惜しまれるねェ。いや実際問題若いんだが、兎に角素晴らしかったよ」
    マントについている埃を払っては、頬に一筋だけ走っている切創へと指を這わせた。あまりに鋭利過ぎて既に治癒が始まっている其処に爪を立ててはがりがりと血の跡を残しながら愉快そうな笑みを浮かべた。
    あの年であの武力。才力も努力も兼ね備えた剣舞は、見事と言う他無かったと愉快な笑みにあわせて愉快に語る。
    「これからも鍛錬を続ければ何れは到達者の道も見えてくるかもしれんよ。フフ、人類(オレ達)の道は明るいねェ、あんなのが転がってるんだ」
    『……私が言うのもなんだけれど、貴方は本当に滅茶苦茶ね。そんな事を言っておいて、それを如何こうしようとする側につくのだもの』
    正気の沙汰とは思えないとは言わないし言えないし資格も無かろうが、それでもと電話口の向こうの女はそう言った。
    けれどもその口調には随分と嬉しそうな響きを隠さずに篭めているのは、本人なりの感謝の念といったところか。
    それを受けて更に笑みを浮かべる男の笑みには、いっそ狂気の念が一つでもあれば良かったのに、それは何処までも正気でしかない笑みだった。
    電話口から響く艶やかな、そして何処か人を狂わせるような魅力さえ持った声の主がやろうとしていることを、人よりは多く知っている。それが何処かの誰かを不幸にすることを知っている。それがそのうち、世界を不幸にすることを知っている。けれども男はそれに平然と笑みを浮かべるばかりであり、だからこそ電話口の女も〝砂漠の狼〟と呼ばれる男を簡単には切れることの出来ない証明だ。
    「そう褒めてくれんな。趣味と実益を兼ねた美味しい大仕事なんだ、抜ける方がどうかしているよ」
    『そうね。褒め言葉として送っておくとするわ。ところでその坊やは如何したの? まさか其処まで言って殺してました、なんて事は』
    「あるかもしれないねェ。運も実力のうちという言葉は寧ろ其方の言葉だったろ。運が良ければ、生きてるさ」
    惨事の始点が何処にでもある民家のダイニングならば終点も何処にはあるだろう民家の庭だった。視点からほぼ一直線であり当然とばかりに柵も玄関も吹き飛ばされて、家人が楽しむ為のプールを横断し、子供の為にしつらえられていたであろうブランコを打ち抜いた先。昔はガーデニングでもされていたのか多段式の棚に、デリクは居た。
    右腕はどうして千切れていないのかと不思議な程に捻られ、膝は砕かれ、頬は千切られ、腹は穴を開けられ、皮も肉も中身もズタボロという表現が似合う様で居た。
    意識を失っても放されなかった剣も根元から砕かれて破片は何処かの残骸に埋もれ、身に着けていた鎧も今や何処にあるかすら見分けもつかないだろう。
    それを悪趣味にも撮影していて、丁度電話口の女性へと届いていた頃だった。
    『あ、あらあら。コレで本当に生きているの? それにしても趣味が悪いわね、貴方』
    「それこそアンタに言われたかねェんだよ。まァあんなんでも十階梯の魔剣士。幾つか回復用の術式を自分の身体に打ち込んでいるのが見えたし、助けが来るまでは持つんじゃないかな? 持たなかったらそれまで。所詮は貴族のぼんぼんが戦士の真似事をしていただけだ」
    そうは言っても、きっと助かるだろうと確信にも似たものを抱いているのか愉快そうな笑みも声も変わりはしない。
    自分でやっておいて、と呆れも含んだ電話の女性はあからさまに溜息一つ。なんだ失敬なと返す男に対して、
    『参考までにね。貴方、怪我は?』
    「というかソレ真っ先に聞いてくんないかな、薄情な狐だ。頬がさっくりやられてて痛いんだよ。痛み止めをくれ」
    十階梯相手に、デリクの武勇を聞く限りは十一にすら達しそうな相手を取って、損害は微々たる傷一つ。代償は、仮に助かったとしても一年はまともに立てないであろう怪我と来た。しかも最後まで得物は使ってはいないらしい、それが彼にとっては怪我以上の屈辱だろうに。
    本当に自分が言えた事ではないのだけれども、この男は性格が悪いと思っていると、お互い様だと帰ってきた。
    さらにもう一度続く女の溜息に肩を竦めながら、一度だけちらりと男は後ろを振り向いては、意識を手放している重症患者へと視線を送った後。次こそもうなんの興味もなくなったと言わんばかりに目を反らして歩いていく。街を抜け出たら眼前に広がるのは、深い霧と、霧に混じった瘴気と、その遥か上にあるであろう都市である。
    この旧都からかの新都へと向かうならば通常は此処から西方へと向かい街道に入るべきではあるが、遠回り。急ぐ道でもないが無駄な手間だとして男が踏み出した先は当然整理もされていない急斜面の山道であり、それこそ国防としてのさばっている異貌の巣窟と化している其処を、此処こそが自分のための街道だとばかりに歩いていく。
    もし、観察者が居るのならば気付く事もあるだろうが、今までの道筋。そしてこれからの道筋。アマジークは、結局異貌に襲われる事は無い。
    何故かと問われれば、答えは一つであり、生き物ならば誰でも持つ本能がこう命じるからに他ならない。
    〝逃げろ〟
    もし万が一にでも〝コレ〟の前に出たのなら、目に止まってしまったのならば確実に刈り取られてしまうであろう本能的確信。
    確信させるだけの覇気を身体から迸らせている男は、ぐんぐんと山を登っていく。この調子ならば数時間後にはミラへと辿り着くだろう。
    「けれど折角身体も温まったんだ。覇道の賢者は、国防に異貌を利用としたと聞いている。どんなもんか見てやろうじゃないか」
    そして今度こそ得物を持って、獲物を追い回すに違いない。此処で追われない異貌は、運が良かったとも言えるだろう。
    どうせ止めても聞かないのだからと電話口の女も本日何度目かの溜息と、本筋を忘れないようにと注意を一つ零してから通話を切ろうとしたところで、
    「期待しているといい。とびきりの花火を打ち上げて差し上げる。その無駄に多い尻尾はちゃんと手入れしておけよ? 逆立つ時に、綺麗に立つようにな。シズカ」
    流れてきた楽しそうな声に、盗聴の危険性だってあるのに余計な情報を漏らすなだとか、同上の理由で名前を呼ぶなだとか、本来ならばお小言の一つも言う所。けれどもまるで祭りを愉しみにしている子供のように、ルージュを引かせた唇を笑みの形に刻んだ。
    『えぇ、愉しみにしているわ。さぞ綺麗なものをお願いしますね、アマジーク?』
    流れるような黒髪は風も無いのに宙へと遊ばせて、楽しそうに一つ言葉を零してから通話を切った。
    しなだれていた椅子から身を起こしては少し長く座りすぎたのか若干皺になったスーツをぴんと伸ばして、思わず振り返ってしまいそうな美貌は楽しそうな笑みのままに歩き出す。万が一にでも通話記録から現在の場所を辿られていた時の場合のための移動を開始して、白面金毛九尾玉藻前と呼ばれた古代の悪魔は歩いていく。
    祭りは近い。





    『オマケ』『この数時間前にシズカと交わしていた雑談』





    (いつものように軽口のような一つ間違えれば戦争起こしそうなヤツ等の危なっかしい喧嘩が終わった頃合)
    「だーいたいそんな口聞いていいのかァな女狐。折角ミラ特産の油揚げをお土産に送ってあげようと思ったんだけどなー、どうしようかなー、やめちゃおうかなー」
    『え? 何? 性格が悪いだなんてなんて私がいうワケないじゃないところでその油揚げは合成品じゃなくて本物? 本物の油揚げ? 職人は誰なのかしら思えばミラは山岳地帯だけれど質のイイ大豆が』
    「分かった。落ち着け。ちゃんと買ってあげるから。ダンボールで届けてやるから。ちゃんと選ぶから」
    職人が丹精込めて作った油揚げって何だよ。
    そんな文句は後日、百年単位で子孫代々受け継いできた豆腐屋の如何にも職人風な親父さんを見て、スミマセンデシタとか言っちゃう未来が待っているアマジークは、電話口の女に対して溜息をついている。
    どうせ街の構図を覚えるために歩き回る予定なのだから、今更寄り道の一つが出来た程度は問題ない。さて、と話を続けようとしたところで、
    『職人が丹精込めて作った油揚げというものはそもそも遥か遠くそうね貴方のような世代の人間には想像もつかないのでしょうけど五千年以上昔に』
    「わかったっつってんだろうが!? どんだけ油揚げに情熱注いでンのアンタ!?」
    遠い昔話まで持ち出して油揚げを語ろうとしている女に突っ込みを入れなければならなかった。
    元々からして油揚げや稲荷寿司は好物だと語っては適当にスルーをしていたのだが、今回は名産地を前にして随分とテンションが上がっている。
    全く、大丈夫なのか、この狐……。



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