『intermedio:Stage:3-1 海辺にて、水着こそジャスティスッ!』
※前半ですが後編は付属しておりません。後編はまた後日※
ラクシズ崩壊。崩壊した事が国に伝わったことすら、その幾日後だったのか……
一時は自国はおろか世界すら揺るがした事件だった。未だに破壊した主犯の情報は掴めず、推定日時すら把握出来ず、当時は多くの生産業や輸出入が停止して相場に大打撃を食らわせてみたり、ロボットというロボットが其処等中で一斉停止して大混乱してみたりという大事件。だった。
が。今はと言えば?
ニュース番組でたまに思い出されたかのように嘘くさい証拠品が出て来たり。
それを討論番組が延々と引っ張り続けて挙句の果てにはお笑い芸人がコメンテーター。
破壊を許した政府の責任追及という名目の元にお祭り騒ぎを起こす団体様までご到着。
端的かつ簡単に言えば、
平和だって事だ。
破壊されたラクシズの断片から回収したデータと、万が一に備えてあった演算用の数百に及ぶAI郡。
以前にも増した警戒態勢の元、なんとかかんとか『ラクシズの代替品』が出来るまではそれで凌いでいるらしい。
素直に諦めて賢者制に戻せよ、と言う声も上がっているらしいけれど、残念ながら代替品以下の代物であろうと、権力に涎垂らして尻尾振ってるような連中よりは余程使えると判断された結果がコレだ。利権を取りたい奴等にはまた苦渋と辛酸を舐める日々が待っているかと思うと、今日も飯が美味いねハッハッハ。
どうにも〝最古の魔法使い〟が後押ししたのも関わっているらしい。アレが利権関係の場に出席するだなんてどうにもキナ臭いが、少なくとも今のオレには関係がないので放っておく。人の事言えんが、ああいう人か異貌かの判断も付けられないような正真正銘の化け物を相手にするなんて、今のオレじゃなくとも関わりたくないのだけれど。
何にせよ。一月も掛からない間に国の根幹を復元して見せたその対応力。流石と言わざるを得まい。
正直に言って驚いた。というか度肝抜かれた。てっきりオレは(というか大半の人間は)、最悪としては国一つが消えるか、良くても他の二カ国にまたも大幅な遅れを取るか、と予想はされていたが結果は……アルフレッド商会とアビスが全面的にバックアップまでしたので、停滞していた産業は一月の遅れは痛いが、それぐらいなら難なくカバーして見せるだろう。寧ろ一月ぐらい軽く埋まって余りある事態に成りかねない。あのシーバーが言葉を失っていたのには、笑えたね。
アルフレッドとアビスは国に恩が売れて美味しい、国は援助して貰って嬉しい、ラクシズ破壊事件も様様というヤツだ。
そんなことで科学大国ラクナスは至って順風満了。
おかげ様でオレも、この湿った季節とは無関係なまでに燦々と降り注ぐカラッとした真夏日和(人造物)の天蓋下で意気揚々とジュースを飲める。つか美味ェ。侮ってた。美味いよマンゴージュース! この濃厚さ故に舌触りすらとろけたような触感を残しつつも喉越しは爽やかでありながら後味にしつこい甘さは残らず僅かに香る柑橘系のソレであり舌をピリッとさせる酸味ッ!? そしてこの味がまた先程買ってきたプリンに合うがこのプリンがまた(以下略)
しっかしさっきからずーーーっと待ってるワケだけれど。遅いねぇ、ソフィアちゃん。
場所も確保した。パラソルも建てた。椅子の設置もバッチリ。折角一緒に食べようと思ってたアイスクリームも溶けてきちゃったもんだから、とりあえず平らげた。後でまた買いに行かなきゃなァ。
今更オレ達に手ェ出すような馬鹿が居るワケ無ェとタカ括ってたワケだが、そろそろ捜しに行くべきか?
組んでいた足を解いて地に着ければ、まだ到底慣れそうも無い砂浜のなんとも言えない沈み込む感触。
当の彼女に海パン一丁で歩くのは何故だか禁止されているので、土産屋で売っていたアロハの出来損ないのようなシャツも羽織っておく。柄は趣味じゃないが防水加工してあるのでこのまま泳いでも大丈夫なのと、砂が付き難く、いざという時はライフセーバーのように膨らむというのだから驚きの高機能だ。大事な事なので二度言うが、趣味じゃないぞこんな柄。ソフィアちゃんがどうしてもと言うから着ているだけであって……。いい年したおっさんがアロハってのもどうかと思うので、平時は絶対に着ねぇ……。
まァ所々に同じようなの着てる連中も居るので、恥かしくないのは救いだ。
じゃ、行かれますか。女子更衣室まで辿り着かないと良いけどなァ。
自分から何処かへ行こうという事は殆ど無いけれども、一度言い出したら其処は突拍子も無い場所。
逆走、寄り道、見当違い。三拍子揃ってる事が殆どの場所は、温泉に入らされたり登山させられたりと、実は自分がレジャーを楽しみたい事が殆どだったりして。でもなんだかんだで私も楽しまされたりするし。きっと今回もそうに違いないのです、いや今回は特に酷いですよ、ゼクシオンさん。
何も私の水着が無いからって、堂々と女性専門コーナーへと一人で歩いていったあの後姿は凄く印象的でした。色々な意味で。
ラクナス区域・第二商業都市ブーン。所謂、りぞーと都市、だとか、なんとか。
北にはスキー、南には海、東西には遊園地や映画館含めた色々あったりなかったり、一体どういう理屈で罷り通っているのか全く分らないほどに色々ある場所。彼は、『ラクナスに不可能はあんまり無いから気にしたって無駄だよ。昔話の時代から月を開発しちまうようなヤツ等だし』と言っていましたし、原理なんて説明された所で全く分らないので気にしないことにしました。
けれどこう、此処には本当に人が多くて。人が多いとこう、
「な。だからさ、そんな男なんて放っておいて遊びに行かない?」
声を掛けてくるような方もいらっしゃるわけで。それならまだしも、中々私の言う事も聞いてくれなくて、かれこれ三十分近くこうして押し問答を繰り広げている事になっています。これが所謂ナンパなのかと、そりゃあ私も女の子ですから男の人に見初めて貰って嬉しくないと言えば嘘にはなるのですけれど、こうしつこいと……。
「大体、さっきから男の所へ行くとか行ってるけどさ、その彼氏ってば全然探しに来ないじゃない?」
男と言えばそうですし、彼氏と言えば語彙的には間違っていないけれど、何か違う。
でもソレを言ったって、先程はおかしな顔をされただけでした。確かに親子でもなければ兄弟でも無いのですけれど、男友達と言うには少し違和感があって、けれど普通は護衛役と海になんて来ないので確かに違和感漂う関係性。
言われて見れば結構、時間がたっているのに捜しに来てくれないし。あァ、ちょっとムカムカしてきました。
目の前の如何にも軽薄そうな男性も男性ですが、少し遅いかなって様子見に来てくれても……ぶつぶつぶつ。
「? 何ぼそぼそ言ってンの。まァそんなワケだからさ、一緒に遊ばな――ひっ」
「?」
しつこい声が行き成り止んで悲鳴のようなものが上がったので、あれ、と会話開始一分後以来からまともに見ていなかった男性へと視線を移して、あァ、と、納得。
「はァ~い、彼氏ィ。楽しい楽しいナンパタイムに邪魔して悪ィが、この娘は既に予約済みだ」
親しげに肩へと組まれた腕からみしみしと音が聞こえてきそうなぐらい力が込められていて、顔は笑っているけれど恐らく目は笑ってないであろうサングラスの光具合とか、そのうちカハァァァとか言い出しかねないような迫力と額に青筋立てたゼクシオンさんが、男性に絡んで居るワケで。見慣れていないと、その筋の方も泣いて逃げ出しそうなその笑顔。
「いやねヤケに遅いと思ったンだよ。でもてっきり、水着見せるのが恥かしくて来てないだけかと、こりゃあ失礼した。まさかナンパされてるとは」
……ナンパされないと思っている程度には魅力らしい魅力が無いという事ですかね?
来て頂いて嬉しい事にはうれしいですが、何か引っ掛かる物言い。
私の視線に気付いたのか、一瞥はするけど顔をそらしている辺り、そうなんですか?
「あー、ま、そういうわけだ。うちの姫様は、酷くご立腹なのは何もキミだけのせいじゃないらしいので逃がしてやるが」
先程から腕に掛かる力が強すぎるのと迫力がありすぎる笑顔のせいですっかり顔を蒼くしている男性に一言、
「人の女に手ェ出すんじゃねぇですよ、くそガキ君よ」
大体をして二十代前半っぽい男性に対してガキと言うには少し無理のありそうな外見のある彼でも、この迫力には頷かざるを得ません。
そうそう、人の女に手を出しちゃ駄目です。
…………。ひとのおんな? ヒトノオンナ?
えっと。聞き間違いです? ですよね。
すっかり怯えている男性をそのまま突き飛ばすというか投げ飛ばすに近い勢いで腕を振り払い、案の定足が砂地から離れて二メートル強程吹き飛んだ男性はそれでも慌てて起き上がっては、軽く悪態をついて背を翻している。
それをにこやかに手を振って見送っているゼクシオンさんは、彼の背中が随分と遠くへと行ってしまったのを確認してから、ふいに持っていた缶ジュースを大きく振り上げて。
ブオォン! なんて物凄い音と、近くに居るだけで風圧が来るぐらい勢い良く腕を回転させてジュースを男性目掛けて放っていて。人混みを抜けて綺麗な一直線を描いてはこれまた凄い音を立ててその缶ジュースが男性の頭にクリーンヒットし、中身のジュースが雨のように降り注ぎながら倒れ付している男性。
「ちょ、ちょっとゼクシオンさん!?」
あの音は拙くないですか?!
何事かと周りのお客さんがざわめきはじめているけれど、直線距離がええっと100メートルくらいはありそうな距離間があるものだからまだゼクシオンさんの仕業だとは思われていないけれども。
そんな中でさて、と一つ溜息をついてから振り返って此方を見て、
「気付くのが遅れて失礼しました。それじゃ、何だ、先ずは不愉快な出来事忘れに甘いものでも食べに行こうか?」
さっさと逃げるつもりらしくてそんな一言と一緒に私の手を取って、歩き出していたりして。
「あ、あの」
「オレは基本、オレに歯向かうヤツには容赦しない主義ですのことよ」
つまり何時ものように、口答えしても無駄ということはよーく分かりました。何も悪口言われたからってあんなに勢い良く缶ぶつけなくとも、とは思うのですけれども、この人は基本こういう分野で私の言う事は絶対に聞いてくれません。経験則です。
手を取られたままにゼクシオンさんについて行きながら、あの男性にはとても可哀相な事だとは思うのですけれども放っておこうと思います。実はひっそり、あの様子を見て心が晴れたと言えない事も無いですし。
「アイスクリームとかですか?」
「それもあるけど、さっき試しに食べてみたマンゴープリンが美味くてさ。先ずはソレだね、あァ、財布は忘れていてもいいよ」
とても楽しみ。
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