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此処はこのブログの管理人・黒斗の一室。日々の雑談を記している時もあれば風月投稿所にて行っているPBC『Babel』の話をしている事も在る、そんな一室に御座います。

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    黒斗
    性別:
    男性
    趣味:
    料理全般(専ら食べる方だけどもね)、酒、煙草、コンビニで週刊誌の立ち読みは既に日課、紅茶、等等
    自己紹介:
    この画像みたいな悪党面も悪どい笑いもしていないので注意。髭と顔が濃いのは認めざるを得ない
    最近は特に肩身の狭い喫煙者。
    ついったー
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    『終わってしまった話 ~following story~』
    (※登場キャラが前作『天地のハザマ』の人物ですので、
    此処に記載。登場キャラの詳細は後書きにて、寧ろ後書きを先に見たほうがいいかも)




    世界は、三度目の愚行を経た。多くの人間にとっては愚行であり、数少ない一部の人間には幸せな終わりを迎えて――
    ……それでもまだ息の根を止められて居なかった。人間が生活する為に必要なシステムの過半数は破壊され、それに嘆く者の平均数すらさて、この『終わり』が始まる前の何分の一なのか。60億もの人が居た時代、それが御伽噺に成り果てつつあり、人という種自体がこの世界にとっての夢になりつつあるこの場において、それでも人は生きている。
    人だけの世界に留まらないというのなら、暗がりにひっそりと、小さな水溜りにひっそりと、目を凝らせばいい。
    コップ一杯の水で殴り合う時代がやってきた。
    パンの一切れで憎しみ合う時代がやってきた。
    しかし、そんなものが如何したのだと言って強く強く根付いている人間の時代は、まだ此処にある。
    〝あの時〟は青い空を存分に写していたガラス等全てが剥がれ落ち、今日もまた仕事がだるいと言っていたサラリーマンを受け入れていたコンクリートは崩れ落ち、よしんば落ちていなかったとしてもどれもこれもがくたびれて、中にはその巨体にくたびれた人達を収納しているビル郡の一角。
    ヒートアイランド現象対策に緑化をとブームに乗せられて、手入れされ咲き誇っていた草も木も花も一切が枯れ果てた屋上。
    近づけば軋み触れれば崩れてしまいそうな、よく昼食を楽しむ同僚達を乗せていたベンチの上。
    残っているのが奇跡のようなその上に乱雑に、しかし軋みも崩壊もさせずに男が一人座っていた。
    砂塵対策に厚手のマント、は羽織っていない。瘴気対策の特製マスクも付けていない。
    こんな毒素に満ちた世界で何の防備もしないままに、今やすっかり高級品扱いのサングラスを重ねている瞳は何の光も映して居らず、ふとすれば死んでいるのかと思われる程だがしきりに人差し指が、とん、とん、とベンチの手摺を叩きながら何事かやっている。傍らには、同じく今の世では珍しい白いステッキ。盲いているらしい。
    目が見えませんとアピールしている者は、今の世の中にはあまり居ない。
    何故なら大抵の者は弱者であり、それを見る周りの者が悪い意味で放ってはおかないからだ。
    例外があるとすれば、一つ。
    ただでさえ砂塵のせいでどす黒く変色している床を、真新しい赤黒い液体で塗らす屈強そうな男数名。このような、悪い意味で近寄って来る者達の塵殺を完了し、かつその者達から身包み全てを剥ぎ取ってしまうような、弱者のフリして全てを奪い去るような、彼等よりももっと性質の悪い者だけだ。

    「遅ッそいなァ。忘れてンのかなァ。あれから随分経ってるしなァ」

    弱者を搾取しようとして逆に搾取され尽くした彼等からの押収品である煙草を、見えてもいないのに危うげ無く取り出しながら、暫くぶりに喋る、と言わんばかりに掠れた声で不平を零している。
    箱入り。湿気り無し。折れてもなし。という三拍子揃った素晴らしい品質の煙草から見て、彼等は相当イイ生活をしていたらしい。
    (箱にはデカデカと喫煙は肺がんの~というお決まりの文句、タール:28mg、ニコチン:2.3mg、Peace、と書かれている)
    どうせならアジトでも聞き出せば良かったかな?
    押収品その二であるジッポライターのオイル臭い火で種を点し、紫煙をゆっくりと吐き出しながら一人ごちた。
    そうすればもっと贅沢出来たのに。
    その中に彼等の仲間が居たとして自分を受け入れてはくれないだろうから、一人も残さず掃除する気で居り、事実その気になればアジト一つと言わず辺り一帯のビル郡丸ごと切り落とすような化け物にちょっかいを掛けてしまった彼等は全く以って不運だ。
    紫と黒と白が不平等に一房ずつ色分けが違うという奇抜な、伸び気味な髪を掻き上げながら一息ついている。
    久々の煙草。それも母国の最高級品に近いソレは、そういうのを抜きにしてもこの場所だから美味かった。『月光』名古屋支部屋上にて、数十年前から呼ばれる事も無くなった旋風の字を関した男は、やはり寒空の下で一人ごちた。


    「遅ッそいなァ。忘れてンのかなァ。ボケるには速くないかィ、ハイリちゃんさ?」


    とか口では言いつつ、実のところはこんな口約束をすっぽかされたって一向に構わなかった。
    彼女が此処に来ないかもしれないという推測に足る情報もある。最近はどうやら、かつての仲間達を看取りにあっちこっちを飛び回っているらしい。痕跡を消すのが異常に巧くなっているものだから、この情報を手にするだけでも一苦労だったが現在は元兵庫の近くにいるらしいというのが確認出来ている。幾ら彼女でも一日やそこらで此処まで来るのは無理だろう。
    末期の水を受け取らなければいけない仲間達。そんな必要の無い自分。
    天秤に掛けた上でその際何百年(もしかすると何千年)後かもしれないにせよ再会の可能性がある自分では少々重りが足りない。そんな自分と会う暇があるのなら、看取ってあげたほうがいいに決まっている。
    それでもきっと今頃、悪い事をしたなと思っているに違いない。彼女は馬鹿みたいに律儀だから。
    ならば何故にこんな、辺鄙かつ不便かつ面白味の無い所へ来たかと言えば暇潰しの一言に尽きる。
    やる事がないんだよ。
    うん、嘘だ。
    実はやる事一杯ある。
    理由は一つ。此処が崩れてしまう前に、もう、一目だけでいいから見たかった。
    一目だけのつもりが屋上まで来てしまったし、巣食っていたボケ共をついカッとなって殺ってしまったが今は反省していない。つい身体が動いちゃうんだ、らんらんねー。いや、ルーか。どうでもいいよな。
    袂を分かった。
    それからの交流はろくすっぽ無かった。
    彼等がどのような人生を歩んだのか知らないし、末期の水を取る気も無ければ墓前に立つ事も無いだろう。
    同じ土俵の上で戦っていた事さえ分かっていたのなら、この不義理をやらかした身には十分に過ぎる。彼等はきっとそんな事気にはしないのだろうけれど、それはそれこれはこれ、私なりのケジメというやつだ。
    だから此処。今では誰とも関係無く、かつての誰とも思い出のある、此処だ。
    「さくらさん。ライス、じゃなく猛君。珮李ちゃん。文子ちゃん。獅子さん、ハゲ、いや違う鷹さん、冬刃さん、真白ちゃん……」
    名を、一つずつ読み上げていく。
    そこに一つずつ、今までずっと取っておいた煙草を並べていく。
    本当はもう少しマシなお供えを用意しておきたかったのだけれど、残念ながら手に入らないものも多い。なので私の取っておきの煙草を一本ずつ供えさせてもらおう。最高級のコニャックに浸して作られた高級煙草だぜコレ、今のご時世考えると幾らするやら。
    まだ逝っちまってない御仁も居るだろうけれど、この際だし済ませてしまおう。
    此処に来る事はもう無い。来たところで無くなってしまっているだろうから、来れて良かった。
    全ての名を噤んだ所で残ったのは丁度一本というのも嬉しい偶然だ。時間潰しに吸っていた強奪品(とは言ってもコレも高級バージニア葉を使っている一級品だけれど)を揉み消せば、それに火を付ける。甘い。流れ込んでくる煙のまろやかさも、甘さも、コクも、流石に厳重保存だけしてあって衰えてはいないようだ。有り合せの上に湿気てたらきっとあの世でグチグチ言われるに違いない。
    あの頃の、甘いとはとても言えない辛味満点の日々を、甘い煙と共に思い起こしながら浮かぶのは、どうしても笑みだ。
    なんといったって、楽しかった。死に掛けたり酷い目にあったりしたし、一度は全身の七割近い箇所に大火傷を負って痛い目を見たが、それこれ含んで楽しいのだから文句は言えまい。あァいや決してMとかそういうのでは無くて。
    手を合わせる。
    今更仏教を信仰する身の上でもないけれど最後ぐらいは祖国っぽく行こう。
    私は逝けたとしても彼等の居る所に逝けはしない。ひょっとしたら世界を救うために尽力したりを査定に加えてコンビーフ天使が便宜を計ってくれるかもしれないが、残念ながら辞退させて貰うつもりだ。そしてこれから生きる場所はもう、彼等と同じ土俵では無い。
    だからコレが彼等と自分を繋ぎ得る、最後の機会。
    今後どれ程を生きるか検討もつかない膨大な未来に覗く彼等への追悼を今此処で全て出しておこうとして、
    ――かなり長い間そうやっていた、気がする。気付いたら煙草はフィルターまで焼き切れて、風は冷たい。
    頃合か。
    若干痺れてしまって感覚の無くなった足を、無理矢理立たせて一息ついたところで、
    「終わりました? 相変わらず日本人は信仰深いですのね、私の身のほうが冷えてしまいますよ」
    やる事の一つに見つかってしまった。


    女だった。街を歩けば誰もが横目に振る程に鋭利な美貌を燈した女だった。
    ハヤテ同様に防塵も防毒も施されていないクセに彼と違って煤一つ、土一つも付いていない紫紺のスーツに惚れ惚れするほどのプロポーションを押し込めた女性。人間離れしていると言っていい美貌は実際の所、人にはあるまじき炎色の、触ったら気持ち良さそうな尾を九本程携えてゆらゆらと揺らしている。
    「人が必死に足取り消してたってのに、よくもまァ見つけてくれるもんですよ。何かの能力で?」
    彼女が何時から見ていたのか知らないし興味も無いのか、肩を竦めては面倒臭そうに応対するハヤテ。
    「企業、あァいや今は個人ですので黙秘権でも行使させて頂きましょう」
    人じゃないだろ。
    そんな内心の呟きに、
    「あら、それではビジネスでもしますか? 私の、貴方を見つけた方法と引き換えに貴方の能力の詳細でも――」
    「おーけーおーけー分かりましたよもう何も言わない。その気味の悪いリーディングやめてくれマジで」
    物の見事に応えられた様相に、うへ、っとわざとらしく吐き気を催すフリまでしている。
    「ッたく。勝手に見つけに来たのはそっちなんだから、捜索費はタダで」
    「勝手に居なくなったのは其方でしょう?」
    「書置き残したでしょ。それとも何、今度からは書置きも残さず失踪した方がお好みで? 静香さん」
    「分かりましたよ。貴方が本気で逃げ出したらそれこそ骨ですもの」
    他愛も無い遣り取りは、こんな感じでじゃれ合うように暫く続く。
    けれどそのじゃれ合いも暫くして、静香と呼ばれた女性がわざとらしく咳払いをしたところでぷっちりと途切れ、
    「それで。準備は宜しくて?」
    その問いに、駄目と言っても連れてくクセに、と軽口交じりに肩を竦めたハヤテはしかし首を縦に振った。
    「此処の空気を暫く吸えないのは、ほんの少し、名残惜しくもあるけれどね。名残惜しさで振り返る要素も、今終わったし」
    親指で指し示した先にある並べられた煙草。
    それをなるべく振り返らないようにしながら、静香の隣を抜けていく。
    「で? 最初の行き先は?」
    そんな彼の挙動に少し可笑しそうにしながらも、目に見えて笑っては刀を抜かれかねないので押し込めつつ。彼女は下を指差す。
    「車を待たせてありますわ。まずはそれに数時間ほど乗っていただいて、殺生石まで参りましょう」
    まだあったんかぃアレ。
    驚きよりも呆れが来ましたと言った様相で肩を竦めている彼を、なんとも言えない表情で笑っている元それに封じられていた者。
    それ以上語らぬままに同じく踵を返す彼女に次のプランを聞く事も無く黙っているのは、国一つ手玉に取ったような知略家相手に強引な回答を迫っていても無駄だと把握しているのが一つ。次いで、もし万が一自分に害が及ぶようなら斬ってしまえばいいという考えが一つであり、今の自分の実力を試すには丁度いい機会だとすら思っているのが一つである。
    人をやめていなかった時分においても魔技と呼べる程の剣速を誇った刃は色々斬ってきた。
    冥界の王を斬ってみたり、日ノ本と呼ばれたカテゴリーの中で最強クラスの狐を斬って見たり……
    本当に無茶をしたが、所詮それでも人の範疇。では本当の意味で魔人と化した今の己が有する力量は、あれからどれだけ上がったのか。
    魔技と言えた今の剣は、当時は斬れても勝てなかった彼等に対してどれだけ有効なのか? もしかしたら勝てるのか?
    ――試してみたかった。
    ぶっちゃけた話。こんな生ける自動辻斬り装置(命名:静香)みたいな男を〝案内〟しなければならない彼女の心境は、凄く曇り空である。
    そんな彼と彼女は数時間後に、人としては果てしない、けれど人ではない者にすれば適度な時間、人間界から姿を消す事になる。
    人間界はあまりに人にとって生き難い世界に成り果ててしまったが、それ以上に魔物にとっては生き辛い世の中になった。人が恐れるのは明日の食料であり、明日の水であり、ソレ等を奪いに来る同胞達であり、魔物は恐れられる事すら忘れられて、そんな世界の隅で朽ち果てるしか無い。
    だから魔物が魔物らしく暮らしていける世界へと、足を運ぶだけ。
    そして時が経てば何れまた、戻ってくる。
    その時まで暫しの退場の果てに、再び舞台へ経つ時の彼等は、
    「あァ。ところで自分、瘴気がキッツ過ぎると呼吸し難いんですけど如何しましょ?」
    「貴方、本当に悪魔になったの? まだ半人とか言わないで頂戴、仮にも九尾の狐がですね――」
    過去にも未来にも変わる事の無い姿で、しらじらしく舞台袖に居ることだろう。

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