「どうぞ、えっくん」
「ありがとう、るーちゃん」
「おいしい?」
「おいしいよ」
「えへへっ。でも、ごめんね、これだけしかなくて……」
「いいんだよ。それもこれもおれの稼ぎが悪いばっかりに……おれのほうこそ……」
「ううん、そんなことないっ。えっくんは頑張ってるよ! 私も頑張って働くから」
「そんなっ。もう手がボロボロになってるじゃないかっ。るーちゃんにこれ以上……!」
「アンタ等のおままごと何でそんなに薄暗い訳!? いい加減にしなさいよ!」
「「わー! 寮母さんが来たぞー! 逃げろー!」」
春一番が吹いてからさして間もなく――……
昼には、着込みようによっては汗までじんわりと浮かぶぐらいに暖かな。
夜には、気を付けておかないと時々ぶるっと肌寒くなる事もあるような。
これから運ばれてくる夏の匂いに向けた季節。あまり長くはない精一杯忙しくなる春。
ハザードの首都にある孤児院には威勢のいい声が響いていた。
なんだか世知辛いおままごとをしている子供が二人。
あまりの世知辛さに堪らず二人を追いかけはじめる寮母。
『なんだなんだ』と見学に走ったり『またかよ』と呆れる視線を送ったりする他の子供たち。
あらあらうふふとそれをのんびりと眺める職員たち。
あまり景気が良いとは言えない時世を関係ないとばかりに微笑ましい光景。
――第三次世界大戦、その最中に起こった混乱、その終結、
それ等の爪痕は一時人類の滅亡にさえ達するかという程深い中にあっても何とか。
本当に何とか、
偉大なる三人の手によって復興の兆しは見えたものの復興の兆しが見えた途端にまた別の問題は起きるのだ。
あれからまだ、100年、100年経ってまた、国土の問題が出来つつある、言葉と言葉の違いによる対立は起きつつある、
他にも色々な問題はあって孤児院という存在そのものも問題の一つではある。
それらの煽りを受けて子供を育てられぬほど貧困にあえぐ者、
はたまた命を無くして子供たちの身寄りも失くした者、
それらとはなんら関係がないことで預けられることもあるが。
あまり恵まれた境遇とは言えぬ子供たちが集まる場所ではあるが。
だからこそ。
『関係がないのだと微笑ましくあろう。元気でいよう。嘆くだけでは現状は変わらない。俯くだけでは前は歩けない。
だけど一歩進むのは大変だから、だから半歩、空元気から始めよう。そうすればそのうち、元気になれているよ』
寮母ロゼの言葉である。寮母ロゼがそうあって、皆もそうあって、
だからこそ。
あまり景気が良いとは言えない時世を関係ないとばかりに微笑ましい光景がここに在る。
「捕まえた!」
「「きゃーっ!」
どたどたどたどた。
あっちにこっちに、そっちにむこうに。
走ったり歩いたり、飛んだり跳ねたり。
元気な二人を元気な寮母が目いっぱいに腕を広げて捕まえる。捕まえられた二人はころころころと笑っている。
「ったく、あんた達、お飯事するのはいいけどそれ止めなさいったら!」
「リアリティがだいじだっていうからね、るーちゃん」
「だいじだよね、えっくん」
「あんた等のはリアリティじゃなくてませてるって言うの!」
るーちゃんと呼ばれている女の子が、寮母さんの腕の中でもそもそ。
寮母さんとえっくんと呼ばれている男の子が首を傾げる。
「げへへへへ。ろぜさん、こんないい身体をしてるんだ、さぞもてあましてるんでしょう?」
「なっ! ちょっ!」「ほほう」
るーちゃんが寮母さんの豊満な胸へとこれでもかと身を寄せ、うろたえる寮母さんと下衆顔るーちゃんの隣で、
何か納得しはじめたえっくん。
「これがリアリティ……わかったよ、るーちゃん、ロゼさん、僕がまだ甘かったんだね」「ちょ、違う違う!? こんなのリアリティじゃない!?」
「なんておっぱいとおしりだ、これだけのものを持っていて何で結婚できないのか……」「あ、それは僕も思――」
るーちゃん は ロゼ の 拳 でもって 吹き飛んだ !
「――う、って、るーちゃーーーーーん!?」
「貴様は言ってはならぬコトを言ったッッッ! あとえっくん、君今頷いたよね?」
えっくん は ロゼ の 攻撃によって生じた隙を見計らい 逃げ出した !
「待てィッッッ!」
「またんっ! 死んじゃう! 死んじゃうよぉぉぉぉっ!?」
「待てッつッてんでしょう! エドワーーーーーーード!」
えっくんと呼ばれている男の子の名は、エドワード。エドワード・グリーン。
グリーン夫妻逝去によりこの孤児院に預けられた孤児院の中でもとびきり元気な男の子。
名前通りに鮮やかな緑の髪の彼は、ここから始まり。
るーちゃんと呼ばれている女の子の名は、ルールエル。
えっくんと二人でいつも寮母ロゼをからかっている孤児院の二枚看板。
黒いパズルピースをネックレスにした彼女が、彼の引き金を引く。
そして寮母ロゼ。
彼女こそ、五千年の後の世に、彼のことを話し始める一人目となる。後の、ソレイユ大魔導師。
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